研究所紹介動画制作の舞台裏:博物館やネットワークとしてのCSEAS – CSEAS Newsletter

研究所紹介動画制作の舞台裏:博物館やネットワークとしてのCSEAS

Newsletter No.81 2023-09-13

土屋 喜生
京都大学東南アジア地域研究研究所助教

2023年度に広報委員会は研究所を紹介する動画を制作することとなりました。研究所には既に、日本語と英語交互で隔年発行する研究所要覧、2019年に公開された当時の所長速水洋子教授による研究所紹介動画、研究所のウェブサイト等があることを踏まえ、本研究所の活動を「説明する」というよりも、その魅力や強みをより広い層の方々に「視ていただく」動画を制作するという目標を立て、始動しました。

プロデューサーの私は、助教として着任後2年目ということもあり、本研究所を紹介するにあたり、他の教員や客員研究者たち、事務の方々への聞き取りをする必要があると考えました。そうした準備を通じ、様々な分野や立場の方々と直接お話しする機会をいただき、私自身学ぶことの多い時間でした。研究所の魅力や強みとしては、学際的であること、国際的であること、国内外の地域研究機関の連携に尽力してきたことなどが他のメディアでも強調されていますが、事前の聞き取りを通じ、関係者からしか聞けないようなお話も聞くことができました。

例えば、スローガンとしての学際性や国際性だけでなく、「必ずしもディシプリン(ひとつの学問)におけるトレンドに乗ることを強制されずに、専門とする地域にとっての課題や自分自身が重要と考える研究課題を設定できる環境を維持している」「学術的多様性を尊重し保護する制度と寛容な文化が確立している」という指摘もありました。客員研究者の方々からは、「他の国々で政治的・学術的な迫害に遭う研究者たちが、自由に研究することができる避難所のような機能を持っている」「多種多様な学問や国々の専門家たちが議論するための出会いの場を提供している」「多言語での出版活動を重視しているため海外での認知度が高い」との声もありました。

 

京都大学 東南アジア地域研究研究所 – 出版活動と国際ネットワーク

 

また、歴史ある京都大学の伝統、国際的な地域研究を牽引してきた旧京都大学地域研究統合情報センター(旧地域研)や旧京都大学東南アジア研究所(旧東南研)の伝統、そして学説史の様々な場面を彩る個々の偉大な研究者たちが所属・訪問してきた研究所であることは、海外で教育・訓練を受けた私のような比較的若手の東南アジア研究者にも大きな魅力となっています。

そして、事前の聞き取りを進める中で「誰のための広報なのか、誰のための研究所なのか」という問いも挙がりました。政府や京都大学のような統治機構。本研究所に直接関わることとなる国内外の研究者や学会関係者。寄付者やドナーである日本の納税者。そして研究者が研究対象としている様々なコミュニティに属する人々。研究所は多くの関係者に囲まれています。他者を理解し、独自の、あるいは共通の問題に取り組むことに重点のある地域研究において「誰に向けて語るのか」は難問ですが、本研究所はこれらの集団の協力があってこそ成立するものでもあり、国内外の様々な方々が協働するネットワークの一部でもあります。

3月には、写真家の楠本涼さんに映像制作を打診し、これらの問題意識を3本の動画(京都大学の地域研究:特徴と挑戦、研究所の学問的多様性、出版活動と国際ネットワーク)として映像化することになりました。そして、これらを「視て」いただくには、短い動画で、実際に本研究所の魅力を体現している複数の教員に登場してもらうのが一番ということでまとまりました。そのため、今回制作した3本の紹介動画には、9名の多彩な教員が登場します。

撮影日には所内外を駆け巡り、インタビューとともに、環境や設備、そして様々な史資料や道具を用いた撮影を行いました。特に私の印象に残っているのは、数秒間の短いカットとして挿入されている様々な史資料やフィールドノートの撮影です。楠本さんは「映像で魅力を伝えるには、専門家が使うモノを撮るのが大事」と強調されており、撮影中は彼の取る映像に舌を巻く場面が何度もありました。

例えば、地域研究の特徴に関する最初の動画では、西芳実准教授が学生時代に行ったアチェでのフィールドノートの1ページが写されています。そこには「住民投票」の写真や戦闘によって男たちがいなくなった村に関するポストイットが貼ってあり、当時の緊迫した雰囲気を伝えています。図書室の閲覧室にて様々な史資料を広げ、私がページをめくりながら質問し、西芳実准教授から当時の経験について教えていただいている状況を撮影しています。

 

京都大学 東南アジア地域研究研究所 – 京都大学の地域研究:特徴と挑戦

 

別の動画のマイケル・フィーナー教授のシーンにも、本棚の一段を埋め尽くしている研究ノートの1ページ、ジャウィ語やアラビア語の古書、考古学調査で用いる道具等が登場します。私のオフィスにも、19世紀頃のポルトガル語−テトゥン語の辞書、聖書物語、祈祷書のような珍しいモノがありますが、他のオフィスも小さな博物館のようです。

 

京都大学 東南アジア地域研究研究所 – 研究所の学問的多様性

 

それぞれ短い動画ではありますが、モノやネットワーク、個々の研究者自身や研究を含めて東南アジア地域研究研究所の魅力がたくさん詰まった動画となっていますので、楽しんでいただければ幸いです。

撮影中のひとこま

出演者一覧

京都大学の地域研究:特徴と挑戦

研究所の学問的多様性

出版活動と国際ネットワーク

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“CSEAS as a Network and Museum: Introducing the Center’s Strengths and Attractions”
by Kisho Tsuchiya