翟 亜蕾 Yalei Zhai – CSEAS Newsletter

翟 亜蕾 Yalei Zhai

Newsletter No.81 2023-11-08

政治経済共生研究部門・准教授
博士(経済学、京都大学)
専門は地域研究、開発経済学

京都大学大学院経済学研究科で経済学修士号および経済学博士号を取得した後、日本学術振興会特別研究員、京都大学大学院経済学研究科特定助教、信州大学経法学部講師・准教授を経て、2023年9月に東南アジア地域研究研究所(政治経済共生研究部門)准教授に着任いたしました。

私にとって研究は、フィールドワークに基づく経済学的分析により、途上国の農村の家庭や個人の貧困の要因を探究するという冒険です。従来の経済学のアプローチでは、貧困や貧困層について、説明が欠けている部分があると言われてきました。具体的には、貧困層の意思決定には、一般的な統計に基づく分析によっては捉えきれない、複雑な「不合理」が存在します。そこで私は、フィールドワークを通じて一般的な統計には表れない細部にわたるデータを収集・分析しながら、その「不合理」を探索しています。

ミャンマー人のインタビュー対象にはかならず「水たばこ」を用意しています

冒険の主な舞台はミャンマー・中国国境の貧困地域で、そこでの麻薬撲滅運動や武装紛争、ミャンマー人による中国の農村労働市場への参入などにフォーカスしてきました。とりわけ重視しているのは、社会構造や文化的な要素を入念に考慮し、それぞれの社会経済的な影響のエビデンスを見つけ出すことです。なぜなら、このような地域ごとのエビデンスは、一般的な傾向としても理解でき、他の途上国や地域にも適用できる可能性が高いからです。

例えば、ミャンマーの出稼ぎ労働者に焦点を当てた研究では、同じ未婚女性であっても、貧しい家庭出身の女性の方が、家族を支援するための投資(送金)よりも、将来の結婚相手を探す「婚活」の投資(短期的な個人消費)を重視しています。その結果、出稼ぎの利益が貧困家庭に届かない可能性があり、従来の一般的理解であった出稼ぎの貧困削減効果は、実は過大評価されていたかもしれません。

2023年3月にメルボルン大学で行われたWestern Economic Association International(WEAI)で発表しました

未知の冒険が続く中で、これらの発見が一般的な理解となり、途上国の未来にポジティブな影響をもたらすことを信じています。冒険が進む先にある価値は、学問の壁を越えて、実際の現場での変革に貢献できるかもしれません。これが、冒険の意味でもあります。

また新たな冒険が京都大学東南アジア地域研究研究所で待っていると信じています。経験豊富なフィールド研究者たちと協力して、東南アジアの社会経済における新しい動向に焦点を当てた実証研究を進め、その成果を世界に向けて発信していくことを楽しみにしています。

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New Staff: Yalei Zhai