オフィンニ ユディル Youdiil Ophinni – CSEAS Newsletter

オフィンニ ユディル Youdiil Ophinni

Newsletter No.82 2024-07-10

環境共生研究部門・特定助教(京都大学白眉センター特定助教)
博士(医学、神戸大学)
専門はウイルス学、感染症学、地域遺伝学

CSEASとの出会いは、2020年半ば、パンデミック初期でした。ウイルス学者として、東南アジアにおけるSARS-CoV-2の拡散についての記事を、「コロナ・クロニクル─現場の声」に執筆しました1。昨年、坂本龍太准教授の指導のもとに連携助教として受け入れていただきました。さらに、獣医学と人獣共通感染症の専門家でいらっしゃる山崎渉教授と(飲み会にて)お話しさせていただく機会に恵まれ、それを機に、白眉プロジェクトに応募し、今年4月特定助教に着任いたしました。

私が科学の世界をめぐる冒険に出発したのは、約16年前、臨床医学からです。大学卒業後、インドネシア国立のHIV/AIDSセンターで5年間働き、治療に関する多施設共同臨床研究に従事しました。毎日100人以上の患者さんを診察していましたが、疾患に対する理解は限られていました。「私の病気は治るんでしょうか?」と切実に尋ねる多くの患者さんを前に、答えることが出来ませんでした。その内省を経て、HIV感染の根本的な治癒を目指す基礎研究をするために日本への渡航を決めました。

神戸大学ウイルス学研究室では、ウイルスの性質や、生物ゲノムに含まれる膨大な情報について学びました。ウイルスは、カプシドと呼ばれる殻に包まれた単なる遺伝物質なので、ウイルス学者は遺伝学を理解する必要があります。私は、CRISPR-Cas9という遺伝子を切ることの出来る技術を使って、感染細胞からHIVゲノムを切り取ることに成功しました2。そして、2020年4月、動物モデル研究がより発展している米国に移り、展開医療を目指す分野のウイルス学研究所に勤務しました。

HIV治療に関する私の基礎研究が日本の新聞で紹介されました(『読売新聞』2018年10月26日付「[平成時代 DNAの30年] 第3部「治す」(7) エイズ「2030年終結」挑む」より抜粋)

コロナパンデミックは多くの人々にとってそうであったように、私にとっても転機となりました。外出制限によってボストンの一室に閉じ込められる日々の中で、生物医学者の多くは自分の聖域に閉じこもり、現実の問題に無頓着であるように感じました。その距離を埋めようと、考えました。例えばワクチン配布の不公平、公衆衛生と個人の自由の間の倫理的な葛藤、そして最も興味を惹かれたのは、パンデミックの根本原因についてです。

人獣共通感染症がウイルス・パンデミック発生の原因であることが明らかになりました。2022年のNature論文では、人為的な気候変動が動物の生息地の変化と異種間ウイルス感染のリスクを高めると報告されています3。その論文の図の一つにはリスク分布の地図が示されており、インドネシアが最も明るく輝いているのを見て心が沈みました。異種間ウイルス伝播のリスクが世界で最も高い地域だったのです。ウイルス学と感染症について、より包括的で非人間中心的なアプローチが、私の出身地域には他のどの地域よりも必要で、それが実施できるかは(大袈裟に聞こえるかもしれませんが真面目な話として)地球の未来を変えると思っています。

CSEASには、多様な分野の研究者の先生方が集まって、特定の難題に対処するために知識とフィールドワークの経験を共有される場があります。その場に参加させていただきながら、科学の冒険を続けられることに対し、これ以上ないほど感謝しています。

CSEASにてインドネシアのHIV/AIDSの社会運動に関する多分野横断研究を行う中で、十数年ぶりに友人と再会しました(ジャカルタ、2023年)

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New Staff: Youdiil Ophinni