マジッド・ダネシュガル Majid Daneshgar – CSEAS Newsletter

マジッド・ダネシュガル Majid Daneshgar

Newsletter No.83 2025-04-09

社会共生研究部門・准教授
博士(宗教学)

私はこれまでずっと、東洋学者になってさまざまな言語で書かれた多様な資料を研究したいと願ってきました。私にとって東洋学とは、「東洋とは何か」という問いに答えるために世界中の文献を読み、そのつながりを探究する最も総合的な学問です。東洋学は、学界における保守性や偏見に真っ向から立ち向かい、権威者や権力者、年上の者や上官が創り出したひとつの枠組みを超えてゆく研究を可能にすると私は考えています。私は東洋学者になるという夢を、マレー・インドネシア語圏、古文書学、碑文学、イスラーム研究、宗教と科学、宗教研究の方法と理論などを探究することで追いかけてきました。ですから、ここ京都大学東南アジア地域研究研究所(CSEAS)で、地域研究の准教授として「東洋」に関わる一次資料を研究する機会と場所を得られたことは本当に幸運でした。

2023年7月に京都に移るまでは、ケンブリッジ大学セントジョンズ校の研究員を務めていました。そこでは1632年に初めてケンブリッジに写本コレクションとしてやってきた東洋の書物を調査しました。それは1624年に亡くなった著名なオランダ人アラビア語学者であり東洋学者のトーマス・エルペ、別名エルペニウスの蔵書で、そこには東南アジア由来の唯一無二とも言える希少な書物が含まれています。そしてこのエルペニウスの蔵書に関する研究をより多くの人に知ってもらうため、2024年に『エルぺニウス図書館を再構築する:ケンブリッジ大学図書館初の東洋写本コレクション(Reconstructing Erpenius’ Library: The Frist Collection of Oriental Manuscripts at Cambridge University Library)』と題するモノグラフをブリル社から出版し、同年9月から2025年2月まで、ケンブリッジ大学図書館で「エンドレス・ストーリーズ(Endless Stories)」と題する展覧会を企画しました。

キュレーターとして講演(撮影:ケンブリッジ大学図書館Raffaella Losito氏)

書物のコレクターや東洋学者が作った図書館、個人コレクションへの探究心は尽きることがありません。さらに研究を進めるため、CSEASの貴重・希少資料を集めた図書室別室を訪れることにしました。ある資料を調べていた時、司書の方からCSEAS図書室には石井米雄教授の蔵書を収めた一室があることを教えていただきました。東南アジア、とりわけタイの歴史に関する石井教授の重要な研究については知っていたものの、石井教授が大変なコレクターでもあり、彼が残した「東洋諸言語の宝庫」[1]に京都で出会えるとは思ってもみませんでした。石井教授のコレクションを訪れてわかったことは、石井教授が北アフリカ、西アジア、ヨーロッパ、東南アジアの研究をいくつか入手されていたことです。そこで私は2024年から27年まで3年をかけて、彼の蔵書に関する短い論文を書くことにしました。

CSEASで私は素晴らしい人々や同僚に囲まれているだけでなく、とびきりの資料を読む環境にも恵まれています。さらにはCSEASやその関連部局の同僚たちとの共同研究も進めようとしています。今後、CSEAS及び京都大学を研究の核として、さらに専門的な議論を深めてゆきたいと願っています。

ジャワ語写本(Gg.5.22)のアニメーション。デジタル化及びアルファベット翻字を完了している(撮影:ケンブリッジ大学図書館Raffaella Losito氏)


[1] 「東洋諸言語の宝庫(Treasure of the Oriental Tongue)」とは、1625年にイギリスの士官がエルペニウスの図書館の重要性を示すために用いた表現。この書簡(S.P.84/122)はイギリス国立公文書館に保管されている。拙著Reconstructing Erpenius’ Library: The First Collection of Oriental Manuscripts at Cambridge University Library  (Leiden: Brill, 2024) の33ページで引用している。

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New Staff: Majid Daneshgar