イエテ Ye Htet – CSEAS Newsletter

イエテ Ye Htet

Newsletter No.83 2025-05-14
東南アジア地域研究研究所図書室前の中庭にて(2025年4月撮影)

環境共生研究部門・機関研究員
博士(工学)
専門はコンピュータサイエンス、AIと機械学習、デジタルヘルスケア、スマート農業、環境モニタリング


ミンガラバー!(Mingalaba!、ビルマ語で「こんにちは!」)
ミャンマー、別名ビルマ出身のYe Htet(イエテ)です。私の学びの旅は母国のイチゴ農園に始まり、そして日本の高齢者施設につながりました。農業用センサーから深度カメラによるスマートケアシステムまで、これまでの波乱万丈な学びの旅についてご紹介できることを嬉しく思います。

私の学びの出発点は電子工学です。母国ミャンマーでセンサーや電気回路のパーツ、制御盤に関して学びました。修士課程ではICTを活用してモノのインターネット(IoT)と機械学習を組み合わせ、イチゴ農園の小規模水管理システムを構築しました[1]。農業はミャンマー経済において重要な位置を占めており、スマート農業はとくに小規模農家の生産量の増加に貢献できると考えました。私が構築したシステムは、自動点滴灌漑と環境制御を用いることで、天候の変化に左右されることなく1年中イチゴを栽培できるようにしたものです。さらに、カメラを搭載したラズベリーパイ(小型で低コストなシングルボードコンピュータ)により、葉の健康状態を分析して栄養状態を検知するとともに、IoT技術によってリアルタイムで情報を利用者に届けることができるようになりました。

太陽光パネルの電力を用いた小規模スマートイチゴ農園(2019年2月撮影)

私はしだいに、テクノロジーが現実社会の問題、特に社会的弱者が直面する課題をどのように解決しうるかということに関心を持つようになり、それに伴って研究分野は電子工学からコンピューターサイエンスに移行しました。そして、2019年に日本に留学する機会を得て、さらなる挑戦をすることになりました。

2025年3月に東南アジア地域研究研究所(CSEAS)に来る前、私は宮崎大学で博士号を取得しました。研究テーマは大きく分けて2つ、高齢者介護のためのデジタルヘルスケアと、モニタリングによるスマート畜産でした。博士課程では、視覚情報に基づく高齢者介護システムを開発しました[2]。高齢化が急速に進む日本では、介護施設の人手不足に悩まされています。スマートデバイスやロボットが助けとなる一方で、個人情報の保護や信頼性についての課題が残っています。そのため私たちのシステムでは、深度カメラ(複数のレンズにより人間の両眼視のように奥行きを捉えるカメラ)を使用し、高齢者のプライバシーを尊重しながら、座る、立つ、横になる、車椅子を使用するといった日常的な活動をモニターしました。また、潜在的な健康リスクを特定するために重要な動作の移行(例:座位から立位へ)の検知にも重点を置きました。このシステムは、24時間の継続的なモニタリングを可能にすることで、介護提供者をサポートし、タイムリーな情報に基づいて医療専門家が判断をくだせるような支援の提供を目的としています。

宮崎県の高齢者施設に高齢者見守り用深度カメラを設置(2024年3月撮影)

博士課程ではこれらに加えて、リサーチアシスタントとして共同プロジェクトにも参加しました。これらのプロジェクトでは、画像処理とディープラーニングを応用して牛をモニタリングし、その行動を追跡して健康状態を検知するという活動を行いました[3]。こうした学際的な経験は私の視野を広げ、テクノロジーを社会に役立てたいという思いが深まりました。

熊本市内の牛牧場にて(2022年3月撮影)

今、CSEASの研究環境で第一歩を踏み出すにあたり、ポスドク研究員として学際的な研究に携わる機会をいただいたことに感謝しています。知的で協働的で豊かな環境の一員になれることがモチベーションにつながります。同時に、母国が直面している課題の解決に、自分の研究を役立てたいという個人的な思いもあります。ミャンマーから何千キロも離れていますが、私の心は常にミャンマーのニーズに関心を寄せています。これから出会える素晴らしいみなさんから学び、東南アジア全体への理解を深めるというCSEASのミッションに、微力ながらお役に立ちたいと思っています。

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New Staff: Ye Htet