CSEAS-KASEAS合同学会2023: Engaging Southeast Asian Studies in an Age of Uncertainties – CSEAS Newsletter

CSEAS-KASEAS合同学会2023: Engaging Southeast Asian Studies in an Age of Uncertainties

Newsletter No.81 2023-07-12

土屋 喜生

2023年5月26–27日、韓国東南アジア研究協会(KASEAS)と京都大学東南アジア地域研究研究所(CSEAS)の合同学会「不確実性の時代における東南アジア研究への取り組み(Engaging Southeast Asian Studies in an Age of Uncertainties)」が開催されました。本会議は、両国の研究者が東南アジアに関する最新の研究成果を交換することを目的として、2008年より形を変えながら韓国と京都で交互に開催してきました。コロナ期間中はオンライン実施となりましたが、今回久しぶりに対面で実施することができ、韓国の複数の大学や研究機関から8名、CSEASおよびASAFASから17名が発表者やコメンテーターとして参加しました。2日間にわたる会合では、基調講演、パネルディスカッションやプレゼンテーションを通して、パンデミック、戦争、経済や人の移動の流動性など、近年の様々な不確実性を念頭に置きつつ、東南アジア研究に関する多様なトピックについて意見交換が行われました。

プログラムの詳細についてはこちらのリンクからアクセス可能です。https://kyoto.cseas.kyoto-u.ac.jp/event/20230526/

基調講演

基調講演では、全北大学のJe Seong Jeon教授が “The Asian Solidarity Movement of Korean Civil Society: Observations of 30 years of Development” と題し、韓国における市民社会のアジア連帯運動の発展について話されました。当初、韓国の社会問題に対する問題意識の延長として生まれ出てきたアジアとの連帯運動が、90年代以降、東ティモールの独立運動やミャンマーにおける民主化・人権運動への連帯等、普遍的な価値を共通項とした連帯運動へと変容してきた点を強調されていたことが印象的でした。現在に限らず、各国の東南アジア研究や連帯運動は様々な不確実性や危機との関わりの中で発展・変容してきたことが示唆されました。

不確実性について

今回の合同学会においては、民主主義の後退と権威主義的な傾向の復活、一帯一路計画や都市化等の大規模な経済的変容とそれがもたらしつつある新たなつながり、地政学的なバランスの変化、環境の変化や災害、経済的不平等と自律性の確保の問題、人の移動、感染症、SNSやフェイクニュースと地域研究の関わり方など、様々な不確実性との関わりが言及されました。様々なリスクが指摘される中、しかし、古くからの宗教対立を超えたロマンスの言説を作り出すミンダナオの人々や、国内では様々な障壁のある結婚を実現するために越境するマレーシアのイスラム教徒たち等、創造力と逞しさで困難を乗り切る東南アジアの人々について発表する参加者もありました。

東南アジア研究のあり方、方向性について

ポストコロナの東南アジア研究のあり方については、依然としてフィールドワークの重要性は認識されつつも、通信技術、情報処理技術、AI等の急激な発展をどのように研究に利用し、情報過多やフェイクニュースの氾濫に伴う弊害とどのように付き合っていくかといった共通の方向性や新たな問題が指摘されました。例えば、マクロな情報処理を用いることによる新たな数量的分析、データベースや研究成果の学際的な比較利用等による史料の年代特定等、地域を理解するための新たな方法論が可能になりつつあることが指摘されました。一方で、SNSやAIによって作り出された情報等、信憑性や倫理性に問題のある情報が溢れており、地域研究はこれらを越えた特有の学術的・知的言説を作り出すことができるのかどうか、といったことも議論されました。

アジアからの東南アジア研究に関する発表が揃ったパネルでは、かつて言語学や人類学においてイーミック(内的)アプローチと呼ばれた視点の重要性、そして東南アジアやより広範なアジア地域にてどのように知識が生産され、それが誰によって、誰のために、どのような目的で生み出されているのかという問いに取り組む必要性が強調されました。また、これらの論文は、東南アジアの人々の文脈に即した思考だけでなく、動物や環境、様々な機関の相互関係に着目した学際的・比較的・歴史的な研究を実践することにより、東南アジア研究の新たな方向性を提示しようとするものでした。

(2023年6月24日)

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CSEAS-KASEAS Joint Conference 2023:
Engaging Southeast Asian Studies in an Age of Uncertainties
by Kisho Tsuchiya