地域研究における研究データ管理システムと機関横断型プラットフォームの構築に向けて:第5回SEASIA国際会議参加報告+機関訪問 – CSEAS Newsletter

地域研究における研究データ管理システムと機関横断型プラットフォームの構築に向けて:第5回SEASIA国際会議参加報告+機関訪問

Newsletter No.82 2024-11-13

木谷 公哉(京都大学東南アジア地域研究研究所助教)

SEASIA(The Consortium for Southeast Asian Studies in Asia)は、北東・東南アジアの主要な地域研究機関で構成される国際コンソーシアムです。本研究所は、2013年のSEASIA発足当初から、他の加盟機関とともに、隔年開催の国際会議をはじめとする活動・運営に積極的に関わってきました。

2024年7月18日~20日、第5回SEASIA国際会議「Biennial International Conference 2024: De/Centering Southeast Asia」がフィリピン大学ディリマン校で開催されました。今大会には、世界32カ国190機関から500件を超える研究発表応募があり、その中から選ばれた212件のプレゼンテーションが行われました。1

筆者は神谷俊郎連携研究員とともに、最終日のセッション「Politics and Social Media」において、「Database Framework for Small-scale Datasets: Some Cases on Field Survey Data Collected in Area Studies in Southeast Asia」(小規模データセットのためのデータベースフレームワーク:東南アジアの地域研究で収集されたフィールド調査データのいくつかの事例)を発表しました。

セッション発表の様子(左:木谷、右:神谷)

研究発表 「クラウドを利用した小規模データベースとメタデータの活用」

地域研究者がフィールド調査で収集したデータをデータベースとして保存・公開するにはどうすればよいでしょうか。個人研究者が扱うデータは通常数百~数千程度で、これはいわゆるビッグデータ向けの最新デジタル技術を応用するには少量すぎます。かといって、データベースを個人で構築するにしても、コストがかかり維持管理も大変です。また、例えば、過去に作られ古くなったデータベースからデータを抽出して新しいシステムに移行しようとしても、保存方式が時代遅れだったり廃止されたりしていれば、せっかくのデータも使うことができなくなってしまいます。

パネルセッションでは、「小規模データ用データベース」の構築スキームと、これに対応するための、一般的なクラウドシステム(本研究ではGoogle Workplace)を利用した小規模データセットのデータベースの事例「東南アジア逐次刊行物総合目録データベース(公開中)」「ハノイ旧市街寺社神祠拓本DB(開発中)」「景福寺資料(漢字字喃仏教典)DB(開発中。メタ情報の一部と画像データは京都大学貴重資料デジタルアーカイブにて公開中」「タイ語三印法典DB(公開されているDB上から抽出したデータセットを使って将来的に移行を検討中)」を紹介しました。

質疑応答時のフロアからの質問の一つに「オープンソースのソフトウェアではなく、クラウドシステムを使うのはなぜか?」というものがあり、それに対しては筆者が「クラウドを使うことは、コストと維持管理の両面において大きなメリットが有る。プログラム言語も比較的シンプルで操作性のハードルが低い」と回答しました。

パネルセッションではまた、神谷俊郎連携研究員が「東南アジア逐次刊行物総合目録DB」の運用状況の詳細と、データベースを用いた分析研究の事例を発表しました。地域研究を進めるうえで、特に現地語の逐次刊行物はそのものが欠かせない資料ですが、登録されたメタデータ(書誌情報)もまた東南アジア諸国の出版潮流や言語動態を知るうえで様々な知見を与えてくれます。例えば、ミャンマーの少数民族シャン(Shan)族向け刊行物はほとんどがミャンマー国内で発行されているが、ベトナム北部のモン(Hmong)族向け刊行物はその多くがアメリカで発行されている、ということが書誌情報から見て取れます。これは、1975年に米軍がベトナムから撤退した後、親米的だった多くのモン族が難民として米国に移住し、ミネソタ州やカリフォルニア州を中心に独自のコミュニティを築いた、という近代史上の経緯を反映しています。今回の発表では「データベースは、単に資料の集積システムとしてだけでなく、少数民族やその社会言語学的動態を知る上でのツールとしても利用できる」ことを、上のような事例分析をもとに示しました。

機関訪問:フィリピン各大学の図書館との連携

マニラを訪問したのを機会に、筆者、土佐美菜実図書室長・助教(本年7月着任)、神谷連携研究員の3名は、会期中、開催校であるフィリピン大学ディリマン校の附属図書館同校Asian Centerの図書館、そして近隣校のアテネオ・デ・マニラ大学のリサール図書館を表敬訪問し、それぞれの図書館の副館長、司書、研究者、ICT責任者等と意見交換を行いました。

面会の場では、我々が現在取り組んでいる「コアジャーナル(研究を進めるうえで重要とされる学術誌)の選定・評価」という新しい挑戦について説明し、先方からも、データベースの拡充に向けたデータ提供の提案があり、今後の協力の進展に向けて手応えが感じられる有意義な訪問になりました。

フィリピン大学ディリマン校附属図書館にて。左から、Chito N. Angelesさん(Head of Information Technology Division)、土佐、木谷(筆者)、神谷、Elvira B. Lapuzさん(University Librarian)、Michelle Ann G. Manalo-Eclarさん(Head of the Strategic Communication, Research and Marketing Section)、Jhonalyn T. Calamananさん(Head of the Asian Center Library)2
アテネオ・デ・マニラ大学リサール図書館にて。左から土佐、Joenabie E. Arevaloさん(Deputy University Librarian for Reader Services)、Engracia S. Santosさん(Assistant Director for Operations)、神谷、木谷

  1. 第5回SEASIA国際会議の報告も参照。 ↩︎
  2. フィリピン大学附属図書館広報担当が撮影された写真は、同附属図書館のインスタグラムで公開されている。 ↩︎

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“Data Management System and a Cross-Institutional Platform for Area Studies”
by Kimiya Kitani